献血のリスクについて調べてみた
たかが献血といはれるが、2005年にはVVRによる失神によって頭を強打し死亡する例も報告されてゐる(通算2例目)*1
人の手で人の腕へそれなりに太い針を射し込むのである。あってはならない事だが、現実問題として、不幸な事故は僅かな確率ながらも起こり得るだらう。
ただ、本件の記事を読めば、事故は回避可能であったかのやうにも読める。実際のところは当事者にしか解り様がないし、RSD*2に心因的問題が絡んでゐるのも事実らしい。公共の公益団体*3として全く無自制に補償金を出す訳にもいかないといふ立場も解る。
しかし、かういふ事例が起きてしまふと、ただでさへ減少傾向にあると言はれる献血協力者が一層離れる事になりはしないかとの懸念も拭へない。稀少な事例であればこそ、日本赤十字社には猛省と確実な再発防止策、そして何より被害者への真摯なケアの実施を求めたい。
記事中では年間で報告された健康被害の具体的な内訳が公開されてゐなかったが、調べてみると、独立行政法人福祉医療機構にて公開されてゐる第9回献血推進運動中央連絡協議会の資料に献血構造改革の重点事項についてなるものがあり、ここに平成18年度の献血事故の内訳が公開されてゐた。
これによると、平成18年度の総献血者498万人中、健康被害が発生した事例は53,246人(約1.07%)報告されてゐる。
症状 | 発症者数 | 発症者中割合 | 全献血者中割合 | |
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VVR軽傷 | 37,257人 | 69.97% | 0.748% | |
皮下出血 | 10,433人 | 19.59% | 0.209% | |
VVR重症 | 1,553人 | 2.92% | 0.031% | |
クエン酸反応*4 | 581人 | 1.09% | 0.012% | |
神経損傷 | 469人 | 0.88% | 0.009% |
実際軽症であれば潜在的な数はもう少し増えるかも知れないし、重大事故の根源には必ず数百からなる逸脱事例*5が存在する事はハインリッヒの法則が証明してゐる。
この数字を多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれだらう。献血はあくまでも善意によって為されるものであり、リスクを看過出来ないと思ふのであればしない方が良い。
ちなみ私は、20の頃から年3回*6づつ献血を行ってをり、これからも変はらず協力する予定である。何故なら、医学の発達した今日においても、人は人の為の血液を造り出す事が出来ない。故に献血は、自分が生きてゐる、ただそれだけで誰かの役に立つ時があるといふ事を教へてくれる、類ひ稀なる奉仕行為だからである。
*1:血管迷走神経反応(Vaso Vagal Reaction):注射や外傷などによる疼痛、恐怖・不安などの精神的動揺により誘発される諸症状。軽症であれば欠伸、深呼吸、徐脈など。重症であれば顔面蒼白、冷汗、悪心、血圧低下、嘔吐、失神などが起こる。多くは数十分で快復する。採血後暫く椅子に座ってゐるやう要請されるのはこのため。詳しくは献血者の採血副作用VVRの発生を防止するために[PDF]などを参照。
*2:反射性交感神経ジストロフィー(Reflex Sympathetic Dystrophy):知覚神経支配領域に起こる強い疼痛を主症状として血管運動障害や皮膚の栄養障害などの自律神経症状を伴う症候群。詳細は交通事故110番_交通事故外傷と後遺障害、交通事故相談サイトなどを参照。
*3:厳密には日本赤十字社法(昭和27年8月14日法律第305号)によって設立された認可法人。
*4:成分献血時に注入する凝固防止剤クエン酸による反応。軽症では口唇・手指のしびれ感、寒気、気分不良など。重症では悪心、嘔吐、痙攣、失神など。
*5:製造や医療の現場ではヒヤリ・ハットと呼ぶ。IT分野ではインシデントとも呼ぶらしい