宮入貝供養碑

日本住血吸虫 - Wikipedia

日本住血吸虫とは、ヒトを含む哺乳類を最終宿主とする寄生虫らしい。生活史上極めて限定的な環境にしか棲息せず、そのため有病地では地方病、風土病として差別問題が起こるほど恐れられてゐたさうだ。

日本住血吸虫は宮入貝(ミヤイリガイ)といふ淡水の巻き貝を中間宿主とする。そのため、宮入貝の生息地である水田の側溝などを素堀からコンクリート溝にする沼を埋め立てるなど圃場整備を進め、同時に殺貝剤などを散布して徹底的な駆除を行った。また、水田稲作から果実栽培への農業転換も進めた(最大の有病地だった甲府盆地で葡萄などが特産になった一因らしい)

これにより、日本における宮入貝は絶滅し、現在の追加調査でも確認されていなゐらしい。*1

この駆除作戦には、環境保護団体からの反発もあったと言ふ。臼井沼の埋め立てでは、野鳥保護団体などが、全国的にもまれにみる野鳥の楽園である臼井沼は保護するべきである、埋め立てなくても地方病は撲滅できる*2といふ主張もあったらしい。結果的に、町民決議によってこの沼は埋め立てた。

福岡県の久留米市では、人為的に絶滅へ追ひ込んだ宮入貝の霊を弔ふため「宮入貝供養碑」といふものが立てられてゐるさうだ。

圃場整備によって水田環境が失われ、自然破壊が進んだと言ふ批判はよく聞く。だが、このやうな事例を聞くと、人間と自然の訣別には色々な側面があることを考へさせられる(そもそも水田環境自体が人口物なのだが、別の話なのでここでは扱はない)

ところで、古来から、疫病の原因となる動物を人為的に駆除することは何度も行はれてきた。最も有名な例では「天然痘」だが、古い例では「」といふ怪鳥は前七世紀頃から毒性が記録され、おおよそ七世紀頃まで駆除の記録がある*3

最近の例では白鼻芯SARSの伝染媒体の疑ひがあると発表されると、嫌疑段階であるにも関はらず、生息地を国内に有し、同時に最大の流行国であった中国では大規模な駆除を行った。ところが、その後SARSとの関係について否定的な見解も発表され、動風愛護派から批判の声が上がってゐる*4

結果を非難するのは簡単なことだ。だが、正体不明の病気が身近に蔓延する恐怖は、恐らく想像を絶するものだらう。ペストが人々を魔女狩りへ駆り立てたやうに、その衝動は容易には抑へがたい。対策が遅れれば悲劇を拡大させるといふ見方も出来る。中国政府の取った行動が拙速だったかどうかは、私には簡単に判断を下せられない。

*1:但し東南アジアなどでは未だに宮入貝は棲息してゐるし、日本住血吸虫自体も世界的には絶滅してゐない

*2:地方病とミヤイリ貝について

*3:鴆鳥−実在から伝説へ

*4:これでSARSが防げたのか? ハクビシン大虐殺 - [小さなペット]All About