普通自転車における傘固定器具は違法ではないらしい

何気なく見てゐた大阪のおばちゃん - アンサイクロペディアの項に

雨天でも自転車に載って出撃できるよう、道路交通法を無視してでも自転車へ傘を立てる武具(通称サスベー)を必ず装備している。

といふ記述があった(【さすべえ】って何?

気になったので調べてみたが、どうやらサスベーが違法だといふのは単なる勘違ひによる都市伝説であることが判明した。といふか、販売会社がかなり気合ひを入れて合法性を強調してゐたので、それあさうだらうなあと思った次第。


まづ、違法といふ指摘の根拠は道路交通法(以下道交法)55条2項の

車両の運転者は、運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げ、後写鏡の効用を失わせ、車両の安定を害し、又は外部から当該車両の方向指示器、車両の番号標、制動灯、尾灯若しくは後部反射器を確認することができないこととなるような乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない。

という条文と、同法57条2項の

二 公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めるときは、軽車両の乗車人員又は積載重量等の制限について定めることができる。

及び同法70条の

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

といふ条文に依るらしい(1項については軽車両は除外されてゐる) 罰則は同法121条に定められてゐる*1

次の各号のいずれかに該当する者は、二万円以下の罰金又は科料に処する。
(略)
七 第五十七条(乗車又は積載の制限等)第二項又は第六十条(自動車以外の車両の牽引制限)の規定に基づく公安委員会の定めに違反した者
(略)
九 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反した者
(略)

要するに「危ない運転をしたら駄目」と定められた条文なのだが、これだけでは何が危ないのか具体的な基準が全く決められてゐない。
そこで重要になるのが国家公安委員会が出す『交通の方法に関する教則』*2といふもので、そこが改正されたために大騒ぎとなったらしい。

自転車に乗るに当たつての心得1 乗つてはいけない場合
(略)
(7) 自転車に荷物を積むときは、運転の妨げになつたり、不安定となつたりするなどして、危険な場合があるので、そのような積み方をしてはいけません。傘を自転車に固定して運転するときも、不安定となつたり、視野が妨げられたり、傘が歩行者に接触したりするなどして、危険な場合があります。

これをどう読めば直ちに「傘固定が違法」と解釈出来るのか、筆者にはいささか理解に苦しむのだが、読んで解る通り、危険な場合があります。と書かれてゐるだけで、「してはいけません」とは書かれてゐない。広島県警自転車傘差し運転等の禁止においても、今回の改正の趣旨からすると違反とはなりませんが,安全な運転に心掛け,交通事故に遭わないようにしてください。と回答してゐる。

強風時など、傘を差すことによって蛇行運転となってしまふやうな(現に危険が生じてゐる)場合を除いては、傘の固定器具は合法であると言って良いだらう。

但し、道路交通法における普通自転車(所謂「自転車」)の規格は、道路交通法施行規則(以下施行規則)9条の2にて以下のやうに定められてゐる。

法第六十三条の三の内閣府令で定める基準は、次の各号に掲げるとおりとする。

  1. 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
    1. 長さ 百九十センチメートル
    2. 幅 六十センチメートル
  2. 車体の構造は、次に掲げるものであること。
    1. (略)
    2. 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。

突起物については高さの関係上危害を及ぼす可能性はないと言ひ切れるので問題ないが、さて、傘の固定によって規定の車幅を超える場合は、普通自転車とは見なされなくなるのだらうか。これについては特に解釈らしい解釈が出てゐない。

誤解のなき様に強調するが、普通自転車の規格に適合しなかったからといって直ちに違法といふわけではない。普通自転車とは、自転車道および例外的に歩道を走ることが出来る自転車といふだけであり、車道のみを走る分には全く問題ない(畳めば歩道も走れるだらう) もし気になるのであれば、幅60cm以下の傘を差せば良い。

まあ、法の趣旨に照らし合はせれば、安全速度で走行する分には違反性はまづ無いと言っても良いのではないだらうかと思ふ。


あまり関係ないが、傘 - Wikipediaによると、最近は紳士用の日傘も普及しつつあるらしい。ゆうかりんみたく私も日傘を差してみたいなー。でもちょっと高いなー。

*1:ちなみに、「積載物大きさ制限超過」は軽車両には適用されない。

*2:厳密に言へば、教則は交通におけるルール・マナー集といふ立場であり、これ自体に法的な強制力はない。ただ、取締の指針となる可能性は十分にある。