有害サイト削除、民主が独自法案・プロバイダーに義務化

※タイトルが間違ってゐました。お詫びして修正します。

日経ネットの記事を全文引用する。強調は全て久樹による。

民主党は18歳未満の若年者が犯罪に巻き込まれるのを防ぐため、インターネット上の違法・有害サイトの削除をプロバイダーなどに義務付ける法案の国会提出に向け、党内調整を始めた。自殺勧誘や、児童買春の温床とされる出会い系や児童ポルノなどに簡単にアクセスできないようにする狙い。与党との共同提出も視野に入れており、今月召集の通常国会での成立を目指す。

検討中の法案では、サイト開設者やプロバイダーは違法情報を発見し次第、削除しなくてはならないと規定。違法かどうか明確でなくとも、有害な恐れがある場合は児童が閲覧できなくなるような措置を講じるよう義務付ける。罰則を設けることも視野に入れる。 (09:18)

この記事での記述から、法案の方針をまとめると次の三つに集約される。

  • 「違法情報」は見つけ次第削除しなくてはならない。
  • 「有害な虞のある場合」は児童が閲覧できなくなるよう措置しなくてはならない。
  • これらに違反したら罰っする。

さて、この法案の有効性や実効性については既に各所から突っ込みが上がってゐる。代表例を紹介。

有害サイト規制の前に議論すべきこと - 雑種路線でいこう

  • 「違法情報削除」は既にプロバイダー責任制限法で規定されてゐる。
  • 「有害サイト」の定義が曖昧。ホワイトリスト形式を取れば殆どのサイトにアクセスできなくなる。
  • そんなことしたってPCと使用者は結びつかない。実効性がない
  • 第一、有害排除だけで健全な子供が育つとは思へない
  • フィルタリングの必要性を否定しないが、それを国家が強制するのは反対

部分的に違和感のある箇所もあるが、概ね主張としては同意できる。フィルタリング技術の導入自体は自衛手段として妥当なところだ。だが、それが国家的に義務づけられるといふのが問題である。

「匿名論争」とか「嫌いなものは見るな論争」とか「表現の自由論争」とか、この手の問題の本質は、今のインターネットはフラットな世界であることにある。18禁のエログロ画像だらうと高尚な哲学議論であらうと無為な井戸端コミュニケーションであらうと、全てが同じ次元で平等に公開されてをり、自主的な「棲み分け」が行はれてゐるに過ぎない。

だから、時々その「一線」を飛び越してきた闖入者によって容易に價値観が衝突するし、場合によってはコミュニティの崩壊すら起こり得る。

ならば、インターネットを物理的に階層化するのが正解なのかと言へば、さうではないと思ふ。そこで重用になってくるのがフィルタリングといふこと。情報の取捨選択。Googleが支持されるのもこの取捨選択が秀逸だからである。一方、Google八分問題で分る通り、フィルタリング機能に依存しすぎると、気付かぬうちに情報統制される危険がある。一企業ですら問題視されるのに、国家がやるとなると中国政府の情報統制と何ら変はりないではないか。

閑話休題。出会い系サイトを利用するな、といふ通達だけなら、既に学校から何度も出されてゐるだらうし、その結果として大多数の子供は「利用するなと言はれてゐる」と認識してゐるだらう。利用者も被害者も減らないのは、結局その声が届いてゐないだけで、周知が足りないといふことではないと思ふ。ならば考へるべき問題はそこにあるのではないか。

そもそも、大人の言ひつけを守らずに洒落にならないことに巻き込まれた、なんて事は、恐らくインターネットが普及する前からたくさんあったことだらう。取り返しのつかない事態にまで至らなければ、それも経験だと私は思ふ。情報リテラシー教育*1などともっともらしく言はれるが、私のへぼい情報リテラシーは試行錯誤の末に身についた。誰かに言はれて身につくものではないと思ふ。

最低限、致命的な事態にならないための心得と、致命的な事態にまで至らないためのセーフティネットさへあれば、あとはどんどん失敗するべきだ。失敗に対して大人が冷静に過ちを指摘すべきだ。そんな規制のなかった時代に育った人間は、皆歪んで育ったか? そんなことはない。


ところで、それとはまた別の視点から考へるのだが、日本の場合「違法情報」といふか、「違法」といふ定義自体がかなり曖昧な部分がある。曖昧と言ふか、グレーゾーンが広すぎると言ふべきか。著作権法問題など、商賣からむものほどこの傾向が強い。

強権的に運用すれば二次著作界隈は根絶やしにされたってをかしくない。今はそれらが消極的に運用されてゐるから、まだ極端な問題にならずに済んでゐる。

件の有害情報云々についても、余程ひどいものでなければ、結局のところスルーされて終了ではないかと思ふ。「児童が閲覧できなくなるよう措置」といふのも、今でも殆どのサイトは「18歳未満の方は閲覧禁止」みたいな警告文を載せてゐる(閲覧者の年齢を直接的に調べる方法はないし、あったら困る)

悪意的に利用されない限りは、大山鳴動鼠一匹のやうにも思へる。そしてそんな法案は、今まで何十本も通ってゐるし、運用されてゐる。もちろん、問題点を指摘するのは極めて重要なことなので、どんどんしていただきたい。それがリーガルリテラシー*2の向上にも繋がるだらうし。

あとは、実際の法案が出てこない以上は何とも言へない。

*1:リテラシー(literacy) 読み書き能力。また、ある分野に関する知識やそれを活用する能力。

*2:リーガルリテラシー(legal literacy) 法律に対する知識と、それを活用する能力のこと。