AEDがすぐに使へない場合の心肺蘇生法
最近、心肺蘇生法を学ぶ機会が増えた。少なくとも私はここ5年で4回講習を受けてゐる。咄嗟の時は反復訓練が活きるので、良い傾向だと思ふ。
現在推奨されてゐる心肺蘇生の方法も、ここ数年で何度か改訂された。取り分け、「心肺蘇生と心血管緊急治療における科学と治療推奨の国際コンセンサス」(通称国際ガイドライン。最新版はG2005)が策定されてからは、かなり統一的に講じられるやうになった。
さて、掲題の件。講習で教はった記憶も、またTV等で紹介された記憶も無いのだが、心室細動が明らか*1で、AED(自動体外式除細動装置)がすぐに準備出来ない場合、一度だけ試せる蘇生法がある。それが「前胸部叩打法」で、拳を20cm程上げ、そこから胸骨の下半分を思ひっきり叩打するといふものである。
原理的には心臓震盪の逆だと思へば良い。心臓震盪は、胸部に物理的な衝撃を突然受けた際、正常な鼓動を失ってしまふ症状である。感電で心室細動を引き起こし、電気ショックで除細動出来るのだから、同様に叩打ショックによっても除細動が期待出来ると言はれる。
但し、電気ショックによる除細動と異なり、有効性について確かな知見は出てゐない。G2005に準拠した日本版救急蘇生ガイドラインでは、これまでわが国ならびに諸外国においても前胸部叩打法を前向きに評価した研究はない。しかし、すぐに電気ショックを実施できない場合があるのは確かで、その際に1回だけおこなうことをERC、CoSTRでは考慮してよいとしているので、これに準じた。
とされてゐる。
複数回の実施を推奨しないのは、何度もこの方法を試みるよりも、一刻も早く心臓マッサージを施す方が蘇生率の向上に寄与するためであらう。通常の講習で教へられないのも、余計なことを考へる暇があったらすぐに心臓マッサージを始めて欲しいといふ意図があると思はれる*2
従ってあくまで参考程度の知識であるが、咄嗟の判断に自信がある人は、覚えておくと良いと思ふ。
*1:1.脈拍喪失 2.無呼吸ないしあえぎ呼吸 3.意識消失
*2:事実、救急救命法の手続きは年々簡潔になり、人工呼吸より心臓マッサージに重きを置いてゐる。人工呼吸は蘇生率向上に寄与しないと言ふ学説もある。