東方は今尚同人である

Rubyで書いた在庫云々のテストをしようと思ったのに、こんな燃料が投下されるなんて。

流石にこれは「ない」と思ったので、以下つらつらと思ったことを書く。酒呑んだ勢ひで書いてゐるので駄文といふことで勘弁。ただ、私の思ったことを書くので、一つの意見としてよしなに。


先づ始めに結論を書くが、東方界隈は今尚同人といふ枠でほぼ全てをくくることが出来ると私は思ってゐる。

まず状況が同人であり続けることを許しているようには思えません。少なくても一般雑誌によるブロードキャストを実現した時点で草の根の活動からかけ離れていることは理解すべきだと思います。

と言ふが、同人は商業の縮小コピーではない。逆に言へば、規模の大きくなった同人=商業といふ図式もまた、成り立たない。

経緯はともかくとして、現在の同人は『反商業主義』といふ立場を持ってゐると思ふ。それを最も良く表してゐるのが『表現の自由』であらう。コミケでは、法に引っ掛かる猥褻な物以外*1は全て表現として認めてゐる。だからこそ、種々の拘束に嫌気が差した商業作家が同人界隈に流入したりする。

別に商業主義を否定してゐるわけではない。二次創作としての同人は商業主義に寄生する形で存在してゐる。ただ、だからこそ「自由に出来る」といふことを尊重する土壌があることも忘れてはならない。

さういふ意味では、幻想伝承アフターレポートは同人と商業について非常に興味深い話がなされてゐる。

折合いとしては、僕がユーザーの意見を聴かないことだね。そして僕が意見を無視しても大丈夫、という状態であることがポイントじゃないかな?
僕がユーザーの言うとおりキャラを作ってたら、人気のあるキャラばかり集めたりすることになるんだろうけど。それはそれでどうなんだろう、と思うし。
もし商業であれば確実にすることになるでしょうね。人気のあるキャラクターで一番いいところを取って来る。僕はそれをしたくないし、しなくても許される状態だから。「あのキャラを使いたい」っていう要望は多いし、別に悪いことだとは思わないけど、それを叶えようとするとオールスターを作らないといけなくなっちゃう。そういうわけにはいかないからね。

以下はこの辺りの話を踏まへつつ進めていきたい。

東方Projectは商業主義とは今尚相反する位置を固持してゐる。漫画や小説やと色々商業流通に載る作品は出てゐるが、あくまでもそれは「ZUN氏が表現したいままを維持して」だしてゐる。逆に、それが難しいアニメ化などは幾度話が来ても断ってゐるのである。

第一、その商業作品についてみても、正直売る気があるとは思へない内容――品質を下げると言ふ意味ではなく、ファンが求めてゐる物を作ったわけではない――となってゐる。東方求聞史紀にしても文花帖にしても、東方を知らない人間にとっては全く――それどころか、原作をやってゐても完全には――理解出来ない内容となってゐる。

そして、ZUN氏自身もそれほど売る気で作ってゐない。出版社側から話を聞いて、面白いと思ったものを、自分の表現で出す。乗っかってゐる流通こそ商業だし、出版社側は当然利益を出さなければならないが、当の本人はまるでその気がない*2

言ってみれば、ZUN氏は東方の産みの親であると同時に、東方を「同人」の枠内に留める砦――作中の言葉を借りれば、同人と商業を隔つ「上海アリス大結界」のやうなものだと言へる*3

僕は元の作品を漫画にした事はないんです。元とは違ったタイトルをつけて、新しい主人公、シナリオを用意する。そうする事で作品が生きるということもあるんだけど、版権の問題もあるんです。例えば紅魔郷でアニメを出しました・・・みたいなことになると、ゲームの方の自由が利かなくなる可能性がある。
だから完全に別のタイトルということにしてしまって、別の作品の版権は出版者様が持っています・・・みたいな形にするわけです。そうすると元の作品は僕が好きにできる。そういう考え方でやっているんですけど、アニメってそれがやりにくいなって。

と、商業作品についてはあくまでも「外伝」といふ形で切り離し、本編の同人たる所に支障をきたさないやうにしてゐる。

また、ZUN氏はカラオケ化など、同人の同人の一部が商業化されることについては、原作に干渉しないことを条件に肯定的な見方を取ってゐる。

そうそう、最近二次創作の商業化の話がよくありますよね。CD化とかカラオケとか。それについて、僕から断るようなことは絶対にありません。二次創作者がそれで良ければ、「二次創作者がつくっているもの」の商業化を止める事は僕には出来ないし、することもない。その代わり元となる東方の某については商業化する二次創作と一切関係が無い、ってルールにしています。そうしないと、僕がややこしいことになっちゃうからね。僕は一切かかわっていない、そういうことになってます。
なのでもしここで二次創作をやってる人が居て、CD化とかカラオケとかで商業化したいというのであれば、一度僕の方に話に来てもらえばいつでも出来ますので。
その代わりあれだよ?僕が言うのもなんだけど、自分の作品をそういう商業の場に出しちゃうと、自分の好きなように扱えなくなる。僕はそのへん心配してます。

だからこそ、周りが商業化しても、東方の本質は同人のままである



第一、東方本編が仮に商業化したとして、それは東方同人界隈になんの影響があるのだらうか。コミケを見ても解る通り、原作が商業作品でもコミケは同人イベントである。原作が商業化したからと言って、『同人の同人』が『商業の同人』に代はるだけで、状況は何も変はらないのではないか? 逆に言へば、同人イベントだからイベント管理会社の助けを借りれないといふわけではない。

正直、inuinu_for_Writer氏は何が言ひたいのだらう。氏の言ひたいことは、同人イベントを商業化しろと言ふことだらうか。それはZUN氏とは全く関係のない話である。だって、神主は二次創作の商業化OKって言ってゐるのだから。

例大祭に色々問題があったことは、私も参加した上で色々まとめたので知ってゐる。流石にこれは……と言ふやうな話もあったさうだ。だが、あれを商業的に成功させやうと思へば、収容人数によって割り出された人数を限度に前売り券(カタログ)を頒布。完売で買へなかった人間は入場拒否。しかもカタログ・サークルスペース価格は利益を出すために現行の二倍*4 あとビックサイトや東京都が少しでも問題視するやうな可能性のある頒布物は全部禁止。アフターなんてもってのほかといふ形になるだけではないだらうか。それは安心と言へば安心だが、面白いのだらうか?


コメント欄にも突っ込んでおく。

私は、お金を頂いている時点で制作者と参加者は対等ではないと言えると思っています。

あのね。それは利益を出してゐる(喰はせて貰ってゐる)から言へる話。同人サークルの大半は赤字で出してゐる。そして参加者も、一般商業誌の相場よりは高いであらう本も喜んで買ってゐる*5。それも委託通販ではなく、わざわざ交通費を払って自分の足で。といふと、

現代では表現の仕方は色々あります。 Webでアップロードする。P2Pでばら撒くなど色々な手段があります。
もはやお金を頂いて自費出版の費用を賄う必要もなくなりつつあります。
イベントは作者とファン達の交流も兼ねたものとなっていることは皆様ご存じの通りでしょう。
そこでファン達は作者さん達に対価を払っておられる。 この段階でもはや作者とファン達は対等ではないのです。
もし本当に対等であることを望んでいるのなら、可能な限り無料でたくさんの人に己の作品を撒くのが正しいでしょう。
実はこれを実現しているものがあります。 それが「ニコニコ動画」なのです。
動画での宣伝を除いては基本的に作者は自作品に対価を望んでいません。 閲覧してくれた人たちの反応をモチベーションにあれだけの手間をかけて作品を作っているわけですね。
彼らは無料で人の反応が楽しくて作品を作っているのに、なぜ同人の世界は対価を求めるのでしょうか?

とかね。確かにニコ動の創作は素晴らしいものがある。ああ、昨日も「東方組曲」聞き直してその技巧に感動したばかりさ。だが、それは同人イベントの代替にはなり得ない。絶対になり得ない*6

でなければ、何故赤字を出してまで、売れ残りのリスクを背負ってまで同人誌・同人CDを作るのか。もっと言へば、ZUN氏が東方本編のイベント頒布を最優先するのは何故か。それが同人イベントの代へ難い価値だからである。「それニコで出来るぢゃん」と言ってゐる限り、同人イベントを理解することは出来ないだらうと思ふ。祭で神輿を担いでゐる人に、「暑いのに良くそんな重いもの持つねー」と言ってゐるのに等しい。

地霊殿のサポート問題だって、余程致命的なバグでない限り本来サポートされると考へる方が同人としては無理難題である。それを支へやうといふのが同人の草の根活動であり、今回は上手く行かなかったが、新しい不具合Wikiの管理人は「サポートされない」を前提に動いてゐる分、上手く行くのではないかと思ってゐる*7


同人イベントの参加者は、全て「参加者」であり、そこにカースト制度など存在しない。スタッフも不手際は叩かれる――といふか、例大祭でも十分叩かれてゐたぞ。ただ、あれは想定以上だと言ふ『過失』に類するもの*8だから、擁護の意見も出るだけの話だ*9――し、あれだけ今度の例大祭はヤバイと方々で言はれてゐたのに、事前購入しなかった一般参加者にも過失はある。それくらゐあのイベントは誰にとっても理不尽なものだったのである。

負担といふ観点で見れば、一般参加者の負担が一番軽い。全ての一般参加者は、それを自覚しなければならない。だからスタッフにも、サークルにも感謝と敬意の念が湧く。自分達も出来る限り協力しようと言ふ話が出る。

対価さへ出せば全部面倒を見てくれると言ふのであれば、傘だって差したいし、楽なリュックを背負ひたいし、徹夜だってしたい。面倒事とは全部主催に言ってくれ。俺は知らんが、金は出す。……だったら通販で十分だらう。全員が協力して成功させることに同人イベントの意味がある。だから開会と閉会のあの拍手は感動的なのである。


危機感は解る。来年の例大祭も開催されるか怪しいところである*10し、もう少ししっかりしてくれと言ひたいところもある。従来の同人の捉へ方では今のところ難しい局面に立たされてゐることも想像に難くない。ただ、その解決策が「商業化」では決してない。といふか、さうであってはいけないと私は思ふ。

確かに東方界隈は、今までの「同人活動」といふ枠でくくるには前代未聞の規模にふくれあがってゐる。だが、それは同人を超えた同人を確立するべき立場であり、私達はその岐路に立ってゐるのではないかと思ってゐる。だからこそ、一方で棘符とかネガ板とか、悲観論の巣窟もある。見捨てる人は見捨てるだらう。一過性のブームにあやかってゐた人間も去って行くだらう。

ただ、阿求の言葉を借りれば、「東方界隈は再び矮小な世界へと逆戻りするのだろうか。何故か私にはその未来は想像出来ない。今の東方界隈を見る限り、東方の未来は明るい物としか思へないのだ」*11と私は言ひたい。

新しい人が東方の世界へ入り、その少なからぬ人が東方本編の世界に触れてゐる。でなければ、本編作品が今尚日本全国何処を見渡しても完売中と言ふ状況はありえない。弾幕シューティングといふ超マイナーなジャンルに、ここまで注目が集まったことは素晴らしいの一言に尽きる。だからこそ、私達一人一人の参加者が、上手く行く方法を考へていくべきではないのだらうか。私はその思ひを込めて、博麗神社例大祭に参加する際の心得についてまとめてみたを書き、色付きマップを頒布しイベントのレポートをまとめ続けてゐる。例の在庫云々だって、元々は例大祭紅楼夢カタログの入荷状況をいち早く告知するために作製した。そのまとめが、「初心者で甘く見てゐた友人に手っ取り早く教えるのに役だった」といふ話も聞かせていただいた*12

東方は、神主が一線を越えない限り同人の枠を超えることはありえない。そして啓蒙が不毛、正直者が馬鹿を見ると言ふ前に、まだまだ私達にはやれることがあるのではないか。私にはさう思へてならないのである。





余談。

確かにニコニコ動画で人気を博している動画はそういう動画が多いですが、ニコニコ動画でも一次創作はあるわけで

では、その人たちが、対価を求めないのは何故でしょうか。
価値があると自負するのなら、対価を求めた方が良いはずなのに。
そうした方が、長く、みなに作品を提供し続け、幸せにできるはずなのに。

不思議な話で、同じ時期にこんな話が出るのだ。

住友化学では、蚊帳事業はもっぱら「社会貢献が目的」(米倉弘昌社長)と考えている。だが、主な購入先となっている国際機関からは、適正な利益は確保するよう要請されている。というのも、事業継続ができなければ、蚊帳の供給も止まってしまうからだ。
そのため、住友化学では「いったん上がった利益は学校建設などの形で、再度地域に還元することにしている」(米倉社長)という。

ニコ動は、良くも悪くも自由に出来る空気*13と、即時的なマッシュアップ(二次創作・三次創作)文化が作者の創作力を突き動かしてゐる。一方、同人誌を出す人たちはニコ動でのある意味強制的なマッシュアップ文化に否定的な人も多い。

私は、早くニコ動に「投げ銭」システムが導入されて欲しいなと思ふ。


創作は本来、自由な物であるべきだ。それをわざわざ狭めようとする意見には、私は真っ向から反対したい。
理想論だと言はれやうとも、理想を求めることこそ同人の本質であると私は思ふ。

*1:とは言へ、それもかなり緩い線引きであるが。

*2:と、言ってゐる。

*3:だからこそ、ZUN氏は東方作品内のデータの二次使用には原則禁止の立場を取ってゐるのである。

*4:適当に言ってゐる。

*5:勿論そこには理由がある。といふのも、同人は「売れなくても良い」といふ前提で出す。故に、印刷側はそれを見越して最低限の採算ラインに合はせて印刷しなければならない。だから高く付くのである。

*6:といふか、ニコ動だって結局「うp主」と「職人」と「閲覧者」でカースト化してゐないか? 私はさう思ふぞ。

*7:ただ私は、toshi氏は懸命にサポートされたと思ってゐる。むしろ過剰な程だったと思ふ。その反動が、あの結末になってしまったと思ふと、やるせない。

*8:そもそも、池袋サンシャインシティ文化会館から東京ビックサイトに移るだけでも大決断だったといふ事情がある。

*9:とは言へ、そろそろアフターレポートを出しても良いのではないか? > 社務所

*10:未だに告知がないところを見ると、本当にない可能性が高いな。紅楼夢の開催日がデットラインだらう。

*11:幻想郷縁起 独白より改変

*12:まことに有難い話である。

*13:違法行為も含めて、空気化してゐる面は否めない。そして、そこが魅力となってゐる面もまた、否めない。