直進する自転車は(自転車横断帯がなければ)左折専用車線を走行するのが正しい

道路交通法というのは、私たちの生活に最も身近な法律の一つだが、その内容はあまりに複雑怪奇で、素人がちっとやそっとかじっただけでは全く理解出来ない。それどころか本職の警官ですら勘違いしていることが多々あるという恐ろしい法律である。

たとえば、下図のように交差点の左端が左折専用車線(レーン)で、かつ横断歩道も自転車横断帯もない場合、直進したい自転車はどこを走るべきか。

今朝フジテレビ系列で放送された「めざましテレビ[音量注意]の特集「日本困惑道路」では、このような交差点では自転車は直進出来ない、直進するのは違法である、と明言*1していたが、そんなことはない。

道路交通法第三十五条(指定通行区分)にはこう書かれている。

車両(軽車両及び右折につき原動機付自転車が前条第五項本文の規定によることとされている交差点において左折または右折をする原動機付自転車を除く。)は、車両通行帯のもうけられた道路において、道路標識等により交差点で進行する方向に関する通行の区分が指定されているときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定に関わらず、当該通行の区分に従い当該車両通行帯を通行しなければならない(後略)

つまり、左折専用車線――法的にいうところの通行区分が指定された車両通行帯――の規則は「軽車両」と、所謂「二段階右折をする原動機付自転車」には適用されないことになっている。

従って、都道府県条例か何かで別に規定がない限り、通行の原則に従って、自転車は左折専用車線を直進するのが法的に正しいのである。

くだんの番組の特集は、予算も乏しいと思わしきなかで毎回工夫して調べている感じはするのだが、いかんせん、全国ネットで放送するには調査がお粗末で、検証も不十分と思わしきことが多い*2

前回自転車の特集を組んだ際も交差点走行でおかしな放送をしていたし、そのうえ今回は条文にそのまま記載されているのだから、調べようと思えば5分で調べられたはずである。こういった基本的な裏付けを疎かにしているようでは、マスメディアがいう「報道のプロ」の自認などその程度かと言わざるを得ない。

註.1

なお、これはあくまでも「法的に問題があるかどうか」だけの話であり、現実問題として交通量の多い交差点で左折専用車線を自転車が直進する行為は大変危険であることは間違いない*3

番組でも紹介されていたが、自転車横断帯の整備など、自転車が安全に交差点を通行出来るようにしてほしい、という特集の主旨自体には首肯している。

註.2

恐ろしいことに、番組内では所轄警察署の交通課に予め問い合わせた事を明言している。二段階右折にしてもそうだが、こと道交法の細則に関して警察の解釈は全くあてにならないのが実状である。

本来、こういった法の瑕疵は裁判を通じて指摘・是正されていくべきだが、道交法については交通反則通告制度によってこのプロセスが全く機能していない。

よほど悪質か、重大な事故でも起こらない限り、自転車の違反で裁判までいくのは稀である。そしてそういった現実離れした法の不備の放置が、道交法全体の遵守意識を押し下げる原因となっているのではないだろうか。

註.3

筆者は法律の専門家ではないので、この記事の内容が完全に正確であることを保証出来ません。誤りの指摘は歓迎しますが、もし何か問題があった時は、ご自分で調べるか弁護士に相談してください。

追記.1

予想以上に反響が大きかったので。

id:Iridium 自転車で走ってるときには怖いけど普通に直進の矢印のところを走る(そうしないと危ないから)けど、法律的には正しくないのか。困ったな 2010/01/21

一応、道路交通法第十八条(左側寄り通行等)には

車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。

と但し書きがあるので、危険を感じた時は必ずしも左端を走行しなくても良いと思われます。

*1: http://www.takamagahara.info/picture/2010/kousaten2

*2:まあ、それが気になって目が覚めたりするのだが。

*3:仮に事故った場合は左折車側の過失になるが、あの世に行ってから過失を責めても詮無い話である。