検疫における「停留」の根拠

以下メモ書き。
停留といふのは行政処分(行政行為)の一つで、検疫法を根拠としてゐる。

第2条 この法律において「検疫感染症」とは、次に掲げる感染症をいう。

  1. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)に規定する一類感染症
  2. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定する新型インフルエンザ等感染症
  3. (略)

(略)

第4条 検疫所長は、検疫感染症が流行している地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫感染症の患者又は死者があつた船舶等、検疫感染症の患者若しくはその死体、又はペスト菌保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫感染症の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、次に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。

  1. 第2条第1号又は第2号に掲げる感染症の患者を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
  2. 第2条第1号又は第2号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること(外国に当該各号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに限る。)。

(略)

第14条 検疫所長は、検疫感染症が流行している地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫感染症の患者又は死者があつた船舶等、検疫感染症の患者若しくはその死体、又はペスト菌保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫感染症の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、次に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。

  1. 第2条第1号又は第2号に掲げる感染症の患者を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
  2. 第2条第1号又は第2号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること(外国に当該各号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに限る。)。
  3. (略)

(略)

第16条 第14条第1項第2号に規定する停留は、第2条第1号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者については、期間を定めて、特定感染症指定医療機関又は第1種感染症指定医療機関に入院を委託して行う。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第1種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であつて検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託し、又は船舶の長の同意を得て、船舶内に収容して行うことができる。
二 第14条第1項第2号に規定する停留は、第2条第2号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者については、期間を定めて、特定感染症指定医療機関、第1種感染症指定医療機関若しくは第2種感染症指定医療機関若しくはこれら以外の病院若しくは診療所であつて検疫所長が適当と認めるものに入院を委託し、又は宿泊施設の管理者の同意を得て宿泊施設内に収容し、若しくは船舶の長の同意を得て船舶内に収容して行うことができる。
三 前2項の期間は、第2条第1号に掲げる感染症のうちペストについては144時間を超えてはならず、ペスト以外の同号又は同条第2号に掲げる感染症については504時間を超えない期間であつて当該感染症ごとにそれぞれの潜伏期間を考慮して政令で定める期間を超えてはならない。

(略)

六 第14条第1項第2号の規定により停留されている者又はその保護者は、検疫所長に対し、当該停留されている者の停留を解くことを求めることができる。
七 検疫所長は、前項の規定による求めがあつたときは、当該停留されている者について、当該停留に係る感染症の病原体を保有しているかどうかの確認をしなければならない。

(略)

第35条 次の各号の一に該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

  1. (略)
  2. 隔離又は停留の処分を受け、その処分の継続中に逃げた者

今回の場合、第2条2号、第4条2号、第14条2号、第16条2号が適用されたものと思はれる。実際に症状を発症した場合は「停留」ではなく「隔離」が適用される模様。

ちなみに、1年以下の懲役といふのは他に逃走(所謂「脱獄」)*1、信書開封、遺棄*2、堕胎、証人等威迫、富くじ発売取次*3公正証書原本不実記載*4、無印私文書偽造、建造物等以外放火*5、遺失物等横領*6、傷害の現場助勢*7礼拝所不敬及び説教等妨害*8無免許運転*9、免許不正交付、交通事故における負傷者救護義務違反*10、車輪止め破壊、などがある。

ちなみに、本人や保護者は解除を申請出来るとされてゐるが、実際にはされてゐない。そもそも、申請出来ると言ふ事実を中の人は知ってゐるのだらうか。勿論実際に申請が通って解除されるわけではないとしても、さういふ手続きがあることを説明する行政の責任である。

ところで、今回の措置については国庫で負担すると報じられてゐるが、検疫法第32条には、

32条 検疫所長は、左に掲げる場合においては、船舶等の所有者又は長から、政令の定めるところにより、その実費を徴収しなければならない。

  1. 第14条第1項第3号、第4号又は第6号に規定する措置をとつたとき。
  2. 船舶等の乗組員に対して第14条第1項第1号又は第2号に規定する措置をとつたとき。

二 検疫所長は、前項の規定により実費を負担しなければならない者が、経済的事情により、その実費の全部又は一部を負担することが困難であると認められる場合においては、同項の規定にかかわらず、その全部又は一部を徴収しないことができる。

とされてゐるが、今回の国費負担はいったいどの条文を根拠にしてゐるのだらう。第2項が適用されたのかしら。

*1:逃走罪自体は期待可能性が低いため、罪が軽めに設定されてゐるらしい。

*2:保護責任者遺棄は更に重い。

*3:富くじとは所謂寶籤(たからくじ)のこと。当せん金付証票法によって規定された「宝くじ」以外を販売したり、購入したり、それを取り次ぐ事は禁止されてゐる。外国宝くじを買ってはいけないのはこのため。

*4:公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者、またはその未遂の場合。登記簿や戸籍簿等は更に重い。

*5:自己が所有していない物については更に重い。

*6:占有離脱物横領とも言ふ。所謂「猫ばば」の事。占有権のある物を横領した場合は窃盗罪が適用される。

*7:所謂「囃し立て」行為の事

*8:説教、礼拝又は葬式を妨害した場合に限る。単純な礼拝所不敬は少し軽い。

*9:純、取消、停止、免許外を問はず。

*10:軽車両で人を死傷させた場合を除く。