公然猥褻で家宅捜索って何それ?

例の草磲氏の公然猥褻事件の話。

最初の報道を見た時は「無茶しやがって……」アスキーアートを思ひ浮かべる程度だったが、家宅捜索を受けたと聞いて流石に耳を疑った。公然猥褻罪で家宅捜索? 何の意味が? そんな事例あるの?

と思ったら、矢張り同じ疑問を抱かれた方がゐた。

なんか違和感あるなと思って、元警視庁警察官の黒木昭雄さんに電話して聞いてみました。現場の(元)おまわりさんとしては、どう思うかと。そしたら、案の定、「これは、おかしい」と。

黒木さんによると、草磲君が泥酔状態で正常な判断ができない場合は、警察官は警察官職務執行法警職法)によって泥酔者を保護するのが通常だそうです。
公園など公共の場所で全裸になっていれば、法的には「公然わいせつ罪」を構成することは可能だそうです。しかし、警察官の職務の第一は市民の安全を守ることで、この場合、ふつうの判断なら逮捕ではなく保護なんだそうです。

公然猥褻(わいせつ)罪とは刑法第174条に規定されてゐる。

公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

最決昭32・5・22刑集11-5-1526によると、この「公然」といふのは不特定又は多数を指すらしい。従って誰も来ない山奥で素っ裸になっても公然猥褻罪には問はれないが、幾ら深夜とはいへ、公共の公園で素っ裸になってゐたら不特定少数の人間に認知される可能性があったのだから、公然猥褻罪が成立しないわけでもない。

ただ、どちらかといふと本件は酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(酔っ払い防止法)第3条及び4条の

警察官は、酩酊者が、道路、公園、駅、興行場、飲食店その他の公共の場所又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の場所又は乗物」という。)において、粗野又は乱暴な言動をしている場合において、当該酩酊者の言動、その酔いの程度及び周囲の状況等に照らして、本人のため、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当の理由があると認められるときは、とりあえず救護施設、警察署等の保護するのに適当な場所に、これを保護しなければならない。

酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。

に該当する案件ではないか*1。本法では情状に因り、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。と規定されてをり、ましてや国家権力によって住居に侵入し、強制的に私物を差し押さへる家宅捜索の必要性など考へられない

ここから先はぼくの推測ですが、「騒音苦情」を受けて駆けつけた警察官は、全裸で叫ぶ草磲君の異常な行動を見て、「こいつ芸能人だし、クスリやってんじゃないか」と思いこんだ、見込み捜査だったんじゃないかと。

だから尿検査までされ、陰性だったにもかかわらず、引っ込みがつかなくなって家宅捜索までやってしまった。
(略)
本当に、人一人の身柄を拘束するような事件だったのか。ガサまで必要な事件なのか。
新聞報道によると、「公然わいせつの常習性を調べるために」家宅捜索したんだそうです。
これに納得する人がいるんでしょうか? おかしくないか。公然わいせつの常習性って何だ。と、ぼくは素朴に思いますが、みなさんはどうですか?

他の箇所には色々異論があるにしろ、引用部については全くその通りだと思ふ。まあ、私も恐らく薬物だと誤信して突っ走ったんだと思ふが、現時点で既に職権濫用である。そもそも捜索差押許可状は何の罪状で取ったのか。公然猥褻罪であれば許可を出した裁判官の良識を疑ふし、薬物取締法違反であれば別件捜索もいいところだ。

行為自体は誉められた事ではない。草磲氏には酒飲み失格だったと猛省して頂きたい。説教の一つや二つ喰らったり、週刊誌やら2chやらで叩かれたりネタにされたりする程度は覚悟すべきである。イメージを売りにしてゐた以上、CMの降板や芸能活動の自粛もやむを得ないだらう。

しかし、道義的責任と刑事的責任を混同されては困る。それが当たり前だと思ふ事の方が余程恐ろしい。幾ら「身内擁護乙」と叩かれようともマスコミはこの点について批判すべきなのに、こんな時に限ってワイドショー的に盛り上がるばかり。普段は比較的まともなNHKですらこの有様だ。「敵に回すと恐ろしいが、味方にすると頼りない」は2chだけでなくマスコミにも当てはまるらしい。何とも情けない限りである。

*1:軽犯罪法第1条20もないわけではないが、ほぼ公然猥褻罪と同様なので割愛する。